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ブロぐるめ!の特集/連載 : 叫子の部屋
2009.05.28第1回ゲスト:新川義弘氏
憧れの街、銀座。ちょっとおしゃれをして、レストランを予約して。銀座は人を育ててくれる街だと思う。
そんな銀座の街でさりげなく印象に残っているレストランがある。銀座2丁目、ミキモトビルに入っているファインダイニング「DAZZLE」(ダズル)。初めて訪れた時に、小さな、しかし確かな感動をしたこのレストランの秘密を知りたいと、オーナーの新川義弘さんにお話を伺った。
新川義弘
新川義弘 氏プロフィール
1963年生まれ。株式会社HUGE代表取締役社長。高校卒業後、新宿東京会館(現・ダイナック)を経て、長谷川実業(現・グローバルダイニング)入社。その後、取締役に就任。『グローバルのサービスの確立者』とも言われ、 No.2として同社が日本の外食の代表企業へと躍進するステップに大きく貢献する。2005年、同社を退職し、株式会社HUGEを立ち上げる。

2006年4月吉祥寺にスパニッシュイタリアンのカジュアルレストラン「cafe Rigoletto」(カフェ リゴレット)、 2006年銀座にファインダイニングレストラン「DAZZLE」(ダズル)、2007年銀座8丁目に「RIGOLETTO KITCHEN」(リゴレット キッチン)、 2007年宮城県仙台市に「RIGOLETTO TAPAS LOUNGE 」(リゴレット タパスラウンジ)、 2008年六本木ヒルズ5Fに「RIGOLETTO BAR AND GRILL」(リゴレット バー アンド グリル)、 2009年中目黒に「RIGOLETTO SHORT HILLS」(リゴレット ショートヒルズ)をオープン。

新川義弘さんは2002年の日米首脳会議の際、米ブッシュ大統領と小泉首相の対談で接客を担当し、 “サービスの神様”と呼ばれるようになった伝説のサービスマン。レストランを訪れるお客様や、同じ飲食業界にもファンの多い“プロのサービスマン”が考えるお客様を感動させる要因とは何か。その秘密を探ってみた。
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サービスマンが年をとっても似合う街

叫子
お聞きしてもいいですか?なぜDAZZLEを作るのに、銀座という土地を選ばれたのでしょう?
新川義弘
んー、そうですね。僕がなぜこの銀座にDAZZLEを作りたかったかというと、僕自身が東京でもう25年くらい外食畑にいるし、外食が大好きだから、美味しいものを食べに色々なところに行っているんですね。

でもなぜか銀座のダイニングには、ファインなダイニング ―― 例えばロオジエ、後はマキシムなんかしばらく行ってないですけど、その頃よく行ってました。お寿司屋さんであれば久兵衛さんなんかも外国の方が来ると行ってたんですけど、要は自分自身が映画観た帰りやショッピングのついでに寄っていこうかというお店が、自分の中に見つけられなかったんですね。

銀座は大好きな街なのに、僕自身が代官山で「タブローズ」っていうお店をやっていたというのもあるんだけれども、帰りは青山とか代官山に行っちゃうんですよ。中央区銀座っていうのは僕自身がまだまだ若造で、近寄りがたい雰囲気があったの。今でもあります。中央通りのホコ天の真ん中歩けない。わかる?この感じ。中央通りのホコ天を、こうやって両方見ながら楽しめないんですよ。僕今年46なんですけど、銀座っていう街はお邪魔させていただいてるっていう感覚がまだありますね。

そういう風に考えてた時に、僕には独立した時に、もう長い子は17年くらい一緒にやってる子がいるんですね。その子達は離れたりまたくっついたりしたんだけど、最後に僕が会社やる時に、ぜひ一緒にやりたいって言ってくれたんですよ。その時に彼らがね、50とか55になった時に現場に立って、もう腰も曲がっちゃってるし、髪の毛も薄くなってるかもしれないけど、そこに立って似合う街はどこだろうと思ったんですよ。その年まで、彼らにいてほしいと思ったんですね。そう考えた時に、似合う街って銀座しかないなと思って。

僕らがリピートしてもらうにはサービスしかない

叫子
銀座はサービスマンのホスピタリティが違うとよく言われますが、これは新川さんを形容する際について回る言葉でもありますよね?
新川義弘
ホスピタリティって言うとちょっと聞こえがいい言葉なんですけど、基本は、どうやってリピートしてもらうかを考えるんですよ。スターシェフを用意してる訳でもないし、特別すごいデザインの仕掛けがあるとかでもなくて、僕らのグループの中のアイディアだけで、長い期間お客様にずっと愛してもらうお店を作ろうと思ったら、やっぱり人の力しかないんじゃないかなと思ったんですね。

まずは、人はどういう事に感動するんだろうと突き詰めていくと、実は普段のさりげないことなんですよ。誕生日の歌を歌うのもサプライズで楽しいんだけれども、むしろちょっとした仕草とか、さりげないアイコンタクトや一言で、「ここはこれがいいのよね」って思っていただける方が、僕はよっぽど大事だと思っているんです。それをオペレーション力と言っているんだけれども。ちゃんとものが出てくるとか、最高の温度で出てくるとか、顔を上げた時にドンピシャのタイミングでワインを注いでくれるとか、そろそろ会計してもらいたいと思った時にスッと出てくるとか、こういうことの方がサプライズ的な要素よりも何倍も大事じゃないかと思って、サービスを作ってきたんです。

片手がふさがっていても、空いているもう片方の手で精一杯のサービスをしたい

わたしは以前DAZZLEを訪問した際に、...
叫子
わたしは以前DAZZLEを訪問した際に、サービスに感じ入った瞬間があったんです。フレンチなんかではお料理を出すタイミングもあるので、洗面所に立つ場合はサービスマンの方に一言いいますよね。

でもその時、DAZZLEのこの雰囲気ならいいかなと思って、何も言わずに席を立ったんです。そうしたら横の視界に入ったのか、隣のテーブルを接客していたウェイターさんが担当テーブルを向いたまま、わたしの椅子にすっと片手を添えてくれた。

椅子を引いてくれたわけではないので、特に機能的に何かをしてくれたわけではないんです。目線は当然隣のテーブルのお客様にいっている。でも片手はさりげなく私の椅子の背もたれに添えられている。その時、「わー、ちゃんと見ていてくれてるんだ!」と、一瞬嬉しくなったんです。レディのように扱われている気がしたんですね。
新川義弘
あー、そう感じてくれて嬉しい!例えばね、左手にトレンチこう持ってて、たまたまお客様が帰られるとするじゃないですか。その時にただ言葉で「ありがとうございました」と言うより、こっちの右手が空いてるならスッと大きめに上げて、「ありがとうございました!」と言った方が気持ちが伝わると思うんですね。大きめに上げたこの手はどういうことかっていうと、やっぱり内面から出てくるものなんです。

DAZZLEにはマニュアルがありません。ホスピタリティってマニュアルで作れるものじゃなくて、体で覚えていくものなんですね。「ちょっと歩いてきて」という感じでスタッフにやってもらうんです。「ありがとうございました」と言うのと、右手をすっと上げて「ありがとうございました!」と誘導するように言うのとどっちがいい?と聞くんです。「ね、ちゃんと90度以上ひじを曲げて、指先に力が入ってた方がいいでしょ」って。

なんかくさいんですけど、やるんならそこまでやりたいんです。するとみんな手がスッと出るようになるから、次はサーヴしてるテーブルの隣のテーブルのお客様が椅子を引いたとしても、背もたれに手を添えられるようになる。考えなくても自然と手が出るようになるんです。片手でもできるって事は、両手揃った時にもっとフリーハンドで何ができるか、そこを追求するのがサービスだと思います。そういったことをみんなにとっかかりとして、彼らが応用して4も5も6も色んなことを考えながら、サービスって醸成していくんじゃないかと思うんですよ。
叫子
DAZZLEのサービスは、ごく自然で押しつけ感がないですよね。

敢えて悪い例を挙げますが、わたしは隣の席にバッグを置いた際に、タタターっとスピーディーにやってきて何も言わずにあれよあれよとクロスで隠されてしまうと、いたく恐縮してしまうんです。バッグが汚れてしまうのを気にしてるのではなく、私のバッグがお店の雰囲気には不合格で、一刻も早く隠してしまいたいんじゃないかと心底心配になってしまうんです。

DAZZLEも荷物の多いお客様にはクロスをかけられているようですが、不快な感じがしないのはなぜなのでしょう?
新川義弘
あ、僕もそれ同感です。DAZZLEではたまに白いクロスをかける時は、明らかに6名以上のタフなテーブルで、テーブルからさらに盛り上がって置いてある時。荷物がいっぱいある時はしょうがないですよ。そういう時は僕らもぶつかって崩れてくる事故を防止したいので、「上にかけさせて頂きます」と言いながらゆっくりかける時があります。でもそれ以外は、ほとんどこちらからやる事はないですね。
叫子
なるほど、ゆっくり近づいてきて「かけさせて頂きます」のひと言をもらえると、全然違う印象になりますね。

嫌な思いをする事が少ない、それが積み重なると感動というレベルになる

うちではもう十何年もの間、月に2回、ロールプレーという擬似トレーニングをやっているんです。例えば金曜の20:00という時間を設定し、そのシチュエーションを作ってあげるんです。お客様役を4人、スタッフにやってもらうのね。当然スタッフだから、金曜20:00に大体どういった質問を受けるのかを分かっている。「今日の魚何?」とか「トイレどっち?」とか「この時間銀座ってタクシーつかまんの?」とか、わざとフォークを落としちゃったりとか。そういうことをやってみて、お客さんになりきれって言うわけ。で、ベテランの子にウェイターやってもらって、例えば浅居君はうちではベテランだから、彼のサービスを受けてみたいじゃない?

で、よーいドンで始めるんです。周り車座で、7、8人で囲んで見てるの。どういう風に今日の魚を説明するとか、タクシーのことを聞かれたら「中央通りはつかまりませんが2丁目のこっちは大丈夫です。よろしかったら下まで・・・」って言えるかどうかってことですよね?後はトイレに立つかのようにわざわざ席を立ってみて、椅子をスッと引けるかどうかなんかを、みんなで見るわけ。いいことは真似て共有すればいいし、逆に先ほどの叫子さんの話みたいに不快に感じるようだったら、「クロスをかける前に一言添えることで、ワンクッション入れた方がいいんじゃない?」と指摘し合う。

そうそう、実はここがらがポイントなんですけど、DAZZLEにいらっしゃるお客様の感じてらっしゃることの中に、僕はまだまだだと思うんですけど他のレストランよりもいいと思っているのは、「うちは“嫌な思い”をする事が少ない」と思うんですよ。叫子さんが感じてらっしゃることとリンクさせると、それがもしかしたら、小さなことの積み重ねで「あのお店っていいよね」、もっと言うと「感動」というレベルにまでいくのかもしれない。

ロールプレーの最中に「はいストップ」と止めて、その子達に聞くんですよ。「よかったでしょー、今の?」「いやー、すごいです」「すごいんだけど、もしかして気になることもない?無礼講だから言ってみて」。お客様役をやるのはたいてい若い子なんですけど、「言わなきゃダメだよ、みんな感受性がなきゃダメだからね」と促すと、「じゃあ・・・」って出てくるんです。

「ボールペンをカチャカチャするのが気になります」とか「腕を組むってどうですかね?」とか、「早く立ち去りたい感じで、メニューを取るとき目がキレてました」とか、よく見てるんですよ!それも慣れてくるとやっちゃうことなんですよね、みんな。僕もやっちゃう時あります。接客に慣れてきてだんだん周りが見えてくると、次早くそっち行きたいから。でもそれって、「今は私だけを見てほしいのに」とお客様は思っているのに、特に女性の方はやられたら嫌じゃないですか。

そういうことをみんなで言わせると、みんなの反面教師になる。「メニューを引いて脇にしまって、それから動き始めよう」とか。これが全部、店の中のスタンダードになっていくんですよ。こんな風に、うちはサービスを作っています。

お客様がスター気分になれるのは、スタッフ1人1人がスターだから

そうしたら、そうやってロールプレイイング...
叫子
そうしたら、そうやってロールプレイイングしてきた今のメンバーと共に、レストランも年を取っていくという感じになるのですか?
新川義弘
うーん、でもやっぱり、みんなどこかのタイミングで考えるじゃないですか。そういう意味で今お話したロールプレーは、実は新しいスターを見つける場でもある。

若い子にもお客様役ではなくウェイター役をやらせることもあるんです。「え、俺っすか?」みたいな。でもやらせてみると実はしっかり料理やスイーツのことを勉強していて、お客様に聞かれた時にちゃんと答えられたりとか、新たなスターが出てきたりする。だから、それはやってきてよかったです。

僕が一番大事にしてる会議の1つなんですよ。
叫子
なんだかわかってきました。DAZZLEでお客様がスター気分になれるのは、スタッフ1人1人が自分の仕事に誇りを持って、スターのように振舞っていらっしゃるからなんですね。
新川義弘
そうなんですよ!!!!!
叫子
お客様とサービスマンは対等な関係なんですね。スタッフご自身が自らの責任と誇りを持ってサービスをしていて、きらきら働いている。そしてそれが目に入ってくるお客様も優雅でスターのような気分になるし、スターでい続けたいと思う。だから傍若無人な振る舞いはせず、いつまでも上質な客であり続ける。なるほど、DAZZLEの感動の仕組みが少しだけ見えてきました!
新川義弘
いやー、その捉え方をしてもらえると嬉しいな。僕もそういう風にするのが目的。

「これって誰の責任?」っていつも聞くんです。例えばハーブティー担当の子がいるんですけど、「このハーブティー半年も変わってないけど、これ勉強してる?」と、こう聞くんです。全部、勉強なんですよ。

そうすると実は農園にしばらく電話してなかったりとか、うちは落合さんという農園と直接取引してるのですが、落合さんとコミュニケーションを取っていないと、今はフレッシュなカモミールがあるよーとか、ミントが美味しいよなんて情報が入ってこない。で、あっちはこちらの反応がない限り同じのを送り続けるしかない。

やっぱりそこで責任感も出てくるし、自分のサービスに責任を持つということは、美しくサービスするということに結局はつながっていくから、叫子さんのおっしゃる「スターを演じる」というか、結果としてお客様から見ても優雅で、舞台エンターテイメントの部分は感じるかもしれないですね。

パッケージを生かした内装こそ、正解アンサーだった

エンターテイメントといえば、初めて見た時...
叫子
エンターテイメントといえば、初めて見た時から、この建物に決めた理由をお聞きしたいと思っていたんです。

DAZZLEが入っているのはMIKIMOTO Ginza 2ビルですよね。ピンクの色はミキモトのCIカラーであるベージュピンクで、 1つとして同じ形のない窓は、“真珠を育む貝から生まれる泡、舞い落ちる花びら、宝石箱を覗きこみたくなるような期待感や神秘性”をイメージしたものと伺いました。

難しかったのではありませんか?
新川義弘
これは本当に難しかったです。

このビルは、伊東豊雄さんという世界的に著名なデザイナーさんが手がけられたんです。表参道のTOD'Sをやられたり、僕は仙台出身で、せんだいメディアテークという素晴らしい、世界的に有名な建設があるんですけど、それをやられたり。その方のデザインだと聞いた時に、彼の作品が描いてある本を買ったんですよ。そこからヒントを得ようと思って。でもダメで(笑)。

これはダメだなーと思って、この1つとして同じ形のない窓を生かすのか、あるいはもしかすると消してしまって自分達の世界観を作った方がいいのか、ほんと悩んだんです。で悩んだ末に、ここの内観のデザインは戸井田晃英って人間がやったのですが、戸井田くんとシェフと一緒に、2週間ニューヨーク行ったんですよ。
叫子
ここを決めてしまってからですか?
新川義弘
はい、決めて契約した後で、ビルの工事に入る前に。やっぱりハイシーリング、天井が高くて奇抜な店のデザインを吸収しようと思ったら、ニューヨークかなと思って。で、2週間くらいシェフと僕と戸井田で行ったんですね。

その時に思ったのは、これはもうパリ行ってもミラノ行っても、もっと北欧行ってもそうなんですけど、外観を上手に生かしながら、外側は下手すると300年くらい変わってないような建物がたくさんある訳です。中は全く違うものにするんだけど、外壁とか基本的なものを上手に生かしてるんですよ。敢えてあんまり壊してないんですね。それ見た時「なーんだこれやればいいのか」と思って、「じゃあ表とまんま同じがいいな」と思ったんです。

そしたらね、戸井田が6色くらいのピンク色を持ってきた訳ですよ!考えが一致したなと思って嬉しくなって。その中でも一番きわどいピンク、どう見てもこれくらいの切れ端で見るとどぎつい色だったんですけど、「戸井田、俺これがいい。これにしてほしい」と言ったんです。
叫子
内側もピンク色をしているのは、そういう訳なんですね。
新川義弘
そうなんです。塗料って小さな面積で見た時と大きな面積で見た時、全然違うように見えるんですね。結果的に大きい面で見た方が、全然いいんですよ、それで、「なんだ、あまり内装だからって力を入れるよりは、表の伊東豊雄さんが作ったものを上手にデザインに入れた方がいいんだな」って、最後になって気づいて。
そうしたら後は、ライティング(照明)です...
叫子
そうしたら後は、ライティング(照明)ですか?
新川義弘
あれね、戸井田がスワロフスキー使いたいって言いだしたんです。

今DAZZLEの天井から下がってるあれは、シャンデリアを構成するパーツの中で、最も大きなのものらしいです。その中にLEDを入れたら面白いんじゃないかという話になって、最後あの形に落ち着いたんです。
叫子
何個吊り下がってるんですか?
新川義弘
166個かな!(笑)
取材・文 / 華麗叫子
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