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ブロぐるめ!の特集/連載 : 叫子の部屋
2013.08.05第6回ゲスト:宮田順次氏
干しアワビは、フカヒレ・ツバメの巣とともに中国の三大食材のひとつとして珍重されています。その中でも高い値のつく最高級品が日本で生産されていることはあまり知られていません。現在、東北地方で漁獲されている天然エゾアワビを乾燥させた干しアワビは、世界でも最高級とされています。

中国では形の大きいアワビほど珍重されますが、味に差がないにもかかわらず、小さな形の干しアワビは、これまで販売につなげることが難しいものでした。大きいアワビに値はつき、小さいアワビはそれとの抱き合わせというのが常。しかし、漁獲量の大部分を占めるのは標準サイズや小型サイズです。

青森県の尻屋漁協と『南国酒家』はここに注目し、日本国内向けとして標準サイズおよび小型サイズのエゾアワビを使った干しアワビを新たに開発し、「ふくあわび」としてブランド化しました。漁獲量の大半を占める標準・小型サイズのエゾアワビを活用し、かつ国内向けに流通させることにより、手頃な価格で最高級の干しアワビが食べられる市場を作っていこうとしています。
宮田順次
宮田順次 氏プロフィール
株式会社南国酒家、第5代社長。

大学卒業後、三井不動産に入社。4年後に三井不動産を退社し、南国酒家に入社。不動産部門と飲食店部門、両方を経験し、2010年2月、同社の代表取締役に就任。就任と同時に「おいしいものニッポン」企画を立ち上げ、全国の都道府県とタイアップし、各地の食材の普及を精力的に進める。

2012年、農商工連携の認定事業として日本産干しアワビの国内普及事業を発足。東北産の蝦夷アワビを干した干しアワビを『ふくあわび』と名づけ、ブランド化。中国料理のみならず、フランス料理、和食などの汎用性や、商品化に向けての研究を重ねる。
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こんにちは。普段どんなお仕事をされている...
叫子
こんにちは。普段どんなお仕事をされているのか、お伺いしてもいいですか。
宮田順次
僕は3年前の2010年2月、41歳の時に、『南国酒家』の社長に就任しました。やっている事は、社員だった頃とあまり変わりません。

『南国酒家』というと皆さんはレストランのイメージしかないと思いますが、不動産と飲食の二本柱でやっている会社です。祖父にあたる宮田慶三郎が創業オーナーなんですが、彼は歯科医であり脳外科医でもありました。

あるとき祖父が、アメリカの脳外科医学会に出席がてら、米国視察旅行にいったんですね。その時にアトランタで宿泊したのが、今でいうマンションだったようです。居住スペースが、都市の利便性とホテルのようなサービスを併せ持っていることに感銘を受けたため、帰国して早々に不動産開発会社を立ち上げ、「渋谷コープ」を建てました。日本におけるマンション第1号です。そこの地下に広東料理のコック・王耀権(ワン・ヨウケン)を招聘して作ったのが『南国酒家』です。(※ 同店は2011年6月に閉店)

また、現在『南国酒家原宿店』が入っている「原宿コープオリンピア」、「中野ブロードウェイ」なども、祖父の代で開発したビルになります。


僕はというと、新卒で三井不動産に入りました。それから4年後に退社し、今の会社に入ったのが1995年。最初は不動産業しかやっていなかったんだけど、途中から飲食店部門も見るようになって、自由に投資や店づくりをやらせてもらいました。

当時社長だった父はあまり口を出して管理する経営者ではなかったので、営業の仕事をしながら、経営者と変わらないことをやらせてもらっていたんだと思います。お金に関することはもちろん社長がやっていましたが、経営判断の大事なところは関わらせてもらっていたので、2010年に代表に就任したときも、あまり違和感はありませんでした。

家族が複数の会社を経営していたので、将来的にどこを任されるかは分かりませんでしたが、自分としてはいつ『南国酒家』の社長になってもよかったし、実際に経営者が変わったからといって、社員の皆さんにも何も変わりはありませんでした。
ファミリービジネスではなく、他の仕事をし...
叫子
ファミリービジネスではなく、他の仕事をしたいと思ったことはありますか?
宮田順次
うーん、どうかな。飲食事業と不動産事業、両方をうまく兼任しながらやっているので、それだけで時間がなくて困っている毎日なんですよ(笑)

小さいころから祖父と話をする機会がたくさんあって、都市の開発だとか、不動産事業の面白さをよく聞いていました。だから、不動産に関わる仕事をしたいと思っていました。

ただ…僕は一生勤めるつもりで三井不動産に入ったんですね。辞めるときも非常に苦しい・・・辞めたくない中でこちらに移ったんです。

だって、当時バブル絶頂のときに就職活動して、不動産業の中でも結構人気ある会社で、競争率何十倍という中でやっと入った企業だったし、当時、辞める人なんていなかったので。

次男だということもあり、将来特にファミリービジネスに経営者として関わるという明確な意思を持っていなかったんだと思います。

だけどバブルが弾けて、三井不動産も苦しかったのだけれど、うちの会社はもっと苦しいみたいで。「親に育ててもらって飯も食わせてもらった。三井不動産でやっている仕事がそのまま即戦力で使えるのに、自分のところが苦しい時に、すぐに動かないのはどうなんだろう?」と思ったんです。

親父も元気ないし、「よし」、と思って『南国酒家』の経理部長のところに行って、資産状況を見させてもらいました。

そうしたらバブルが弾けた後なので、飲食業は不動産の好調が2年ズレてきていて、調子がいい。だけど、好調な飲食店の利益を、不動産業の赤字が引っ張ってしまっている。会社を辞めて僕がこっちに移れば、所有している資産を売らずに持ちこたえられる。今なら間に合うと、思ったんです。それで三井不動産を4年で辞めることにしました。

でも、その判断は正しかったですよ。今こうして僕が『南国酒家』の社長になって、僕より年配の方も含めて誰も辞めないのは、苦しい時に戻ってきて、従業員と同じ状況を一緒になって乗り越えた連帯感があるからなんだと思います。
叫子
宮田さんは幼少期、どんな少年だったのでしょうか。
宮田順次
兄貴がいて、他の家と比較すると、みんな兄貴に目がいっちゃうんですよ。色んな意味でね。勉強でもなんでも、目を光らせているんですね。兄貴が初めてディスコに行ったときにこっぴどく怒られて、僕が同じ年で行っても何も言われないという、そういう幼少期だったので。

ほんとうに自由奔放で、親にこっぴどく怒られた事もほとんどないんじゃないかな(笑)

小学校のころから、大好きなラーメンの食べ歩きをしてました。家が中国料理店だなんて感覚はなかったので、意識せずやっていたんですね。

不動産業をしているのは知っていたし、母方の家族も会社をやっているので祖父の仕事をあそびで手伝ったりしていましたが、そっちのイメージが強くて。中国料理店はたまに食べにいって、なんだかいつもすごいサービスを受けるな~とは思っていたけれど、自分ン家がやっているという感覚は、中学生くらいまでなかったです(笑)

小さい頃から友だちとの仲とか、「和」とか、「なるべく人のためになることをする」を意識していたように思います。根っからサービス業に向いているんでしょうね。人が嫌がることをするのが非常に嫌いだったし、そういう事に関しては友だちと言い合うことができたというか。

小学校の作文なんかも、「人のためになることがしたい」と書いてあるのを見ると、根底にあるものは今でも変わってないように思います。それが人生の中で一番納得できるし、親が放任だった分、人に対して感謝するというか、そういう感覚が芽生えるのが早かった気がします。あまりに自由だから、ちょっとしたことでもすぐ感動して、「ありがとうございます!」と思って育ったんだと思う。

そういう事を大切にしたいと思っていて、そういう事をすることで僕はいい人生を歩めているので、物事に感謝すると必ず自分にいいことが返ってくるという、成功体験を重ねてきたんじゃないかと。
では、宮田さんが社長に就任してからの3年...
叫子
では、宮田さんが社長に就任してからの3年間で、変わってきていると感じることはありますか。
宮田順次
社内に、主体的に仕事をする人が増えたかな。「なるべく自分たちで自分たちの職を守って作っていくという考え方を持とうよ」と、ずっと言っているんですね。

もちろん統制をとった組織としてルールに則ってやらなければならないガイドラインも必要ですが、それ以外のところについては、「どうしたら売り上げを上げることができるのか?」とか、「どうしたらよりいいサービスが出来るのか?」など、マニュアルにない部分は自分たちで考えようと。で、考えてそれを実行したときに初めて仕事って楽しいよね、ってことをずっと言って、やってきているんです。

逆に社員が生き生きと気持ちよく働ける環境を作るのが僕の仕事だし、そういう会社を作るのは僕の使命だと思っているから、そのためなら何でもしますよというスタンスでいます。それがようやく浸透してきて、みんなで会議を開いたりとか、ああしたりこうしたりをやっているところを見て、「変わってきたな」と思います。自発的に何か会議をするなんて感覚は、前の『南国酒家』ではなかったので。

昔の経営に則って、絶対の人がいて、その人の生き方と考え方が理念だという経営もあると思います。

僕はそうではなくて、会社の社員が考える理念があって、それをみんなで作っていくという。一社員としての意見はあるけれど、僕が言うことは絶対じゃないから、みんなが議論しているのを横で聞いていて、「うん、そうだよね」「僕もそう思う」という程度です。そういうやり方の方が、社員のみんなもフッと心の中に理念が落ちるじゃないですか。自然と。
叫子
現在注目されている「ふくあわび事業」について教えていただけますか?
宮田順次
はい、『南国酒家』では、地域食材をテーマに「おいしいものニッポン」という企画をやっています。全国のどこかの県とタイアップして、その県の食材を使った料理を期間限定で提供する。

僕たち『南国酒家』は、日本の美味しい中国料理を提供するという使命をもっていまして、中国料理をベースにはしているんですけど、中国のものを真似して持ってくるとか、そういうことではなくて。日本に根づく、日本ならではの手法で開発したものを創造していきたいと思っているんです。

一番最初は中国人のシェフに来ていただいてやりましたが、2代目からは日本人のシェフにお願いしてきた中で、やはり日本人にこよなく愛されるようなレストランを目指そうって、ずっと思ってやってきたものですから。

そうやって推し進めていくうちに、もっと日本の食材を知ろうではないかと。せっかく日本にいるのだから海外のものを持ってきて使うのではなく、日本にあるものをうまくアレンジして、風土に合った中国料理を提供できるかってことを一生懸命考えてきました。

そうしてるうちに、「地方に行くと色んな良い食材があるよね」って。じゃあその地方の食材を、出来れば地方ごとの特色を出しながら、中華料理というフィルターにかけて日本の紹介をしていけるんじゃないかと思ったんです。最初が沖縄で、ずーっと移ってきたんですね。そうして2010年に青森に行ったんです。
青森に。
叫子
青森に。
宮田順次
はい。下北半島を訪れたとき、「青森といったらエゾアワビ」ということで、アワビの獲れる産地に、生のアワビを買いつけに行ったんです。そのときたまたま漁協の人たちが、「生のアワビが今年売れ残っちゃった」と。

要は、漁師さんの理想としてる額ってあるわけですよ。これ以下の価格になっちゃうと赤字ラインを下回っちゃうので、売りに売れなかったと。それを保存のため自分たちで干したけど、これはこれでなかなか売れないと。

現状、干しアワビは日本では買い手はいない。中国にしかいないんですけど、中国人は小さいアワビは微々たる額でしか買ってくれない。仕方がないから大きいアワビに抱きあわせ販売という形で売ってるんです。

「南国酒家さん、中国料理やってるんでしょ?これ使えないかな?」と話があったので、「とりあえず持ち帰ってみて、品質が良ければ今後は生のアワビではなく、干しアワビで買うことも考えます」とお伝えして。

それで東京に戻ってアワビを戻してみたら、結構おいしかったというか、遜色ないんです、大きいのと。
叫子
アワビは何をもっておいしいとされているのですか?
宮田順次
味と、食感です。

干すことで旨味成分が凝縮されるので、生食するより旨味が深まるんです。後は、生だとコリコリした固さがありますが、いったん干したものを戻すと、食感としての弾力性が増します。

生のものを煮アワビにしてもモチモチした食感が得られますが、その代わり、旨みエキスが外に出てしまいがち。そこで、長時間かけて干すことによって中にギュッと味を凝縮させる。面白いことに干しアワビを戻す時には、そんなに汁が外に流れないんですね。また、干すことにより味の深みが出るから、食べたときに風味が残る。椎茸と同じです。

それから、これが重要なんですが、生だと産地によって“味の差”は出ないんだけど、干すことによって違ってくるんです。

実は三陸の、東北あたりで獲れたアワビが、世界では一番美味とされています。あのあたりのアワビは食べているものがいいし、水がきれいという良い環境にいて、おいしいアワビが育つための条件が整っています。香りの強い、味の濃いアワビができる。

なので、それに中国人が目を付けて、江戸時代から国外から買い付けに来るようになった。美味しいとそれに対して価値を認め、買う人が出てくる。そんな風にして関わる業者さんが多くなり、中間マージンが増え、干しアワビは年々価格が高くなっていってます。特にサイズが大きいものは数が少ないですから。それがずーっと続いてきたんです。
中国では、アワビは大きければ大きいほど価...
叫子
中国では、アワビは大きければ大きいほど価値があるとされているのですか。
宮田順次
完全にそういう風になっています。大きければ大きいほど、倍、倍のように高くなっていきます。後は生産地によっても価格が変動します。グラムあたりの単価でいくと4倍とか5倍とか、青森の尻屋や岩手の吉浜(中国語読みでキッピン)産のものは、ダントツ高いんですよ。

普通ABCDって同じ食材があっても、産地によって値段の差が出たとしても、たかだか1~2割増しくらい。でもアワビは成り立つんですよ。日本産のものだけはダントツ高くてもみんな買う。日本産は特別。そういう風に日本産のものに価値がついていることを、日本の皆さんはほとんど知らない。

香港に行ったのだから、一食3万~5万くらいかけてもいいという食通の方であれば、メニューを見るとアワビのところにオオマ、キッピンと書いてあって、そこだけすごい高いんですよ。でもそれを日本で食べたことがあるかというと、生でしか食べたことがない方がほとんどです。

… ただし、値がつくのは大型サイズのアワビのみ。標準・小型サイズのアワビは、大型アワびとの抱き合わせでようやく中国の業者が買ってくれる。彼らが買っていったものを、今度は日本のレストランにアワビを卸している日本の業者が、買い値の5~10倍程度で買い戻すんです。それが従来の取引でした。
取材・文 / 華麗叫子
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