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ブロぐるめ!の特集/連載 : 叫子の部屋
2013.08.05第6回ゲスト:宮田順次氏
干しアワビは、フカヒレ・ツバメの巣とともに中国の三大食材のひとつとして珍重されています。その中でも高い値のつく最高級品が日本で生産されていることはあまり知られていません。現在、東北地方で漁獲されている天然エゾアワビを乾燥させた干しアワビは、世界でも最高級とされています。

中国では形の大きいアワビほど珍重されますが、味に差がないにもかかわらず、小さな形の干しアワビは、これまで販売につなげることが難しいものでした。大きいアワビに値はつき、小さいアワビはそれとの抱き合わせというのが常。しかし、漁獲量の大部分を占めるのは標準サイズや小型サイズです。

青森県の尻屋漁協と『南国酒家』はここに注目し、日本国内向けとして標準サイズおよび小型サイズのエゾアワビを使った干しアワビを新たに開発し、「ふくあわび」としてブランド化しました。漁獲量の大半を占める標準・小型サイズのエゾアワビを活用し、かつ国内向けに流通させることにより、手頃な価格で最高級の干しアワビが食べられる市場を作っていこうとしています。
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叫子
宮田さんご自身も、これまで何度も干しアワビを召し上がる機会はあったんですよね?
宮田順次
大きいのは香港でも何回か食べたことがありますし、『南国酒家』でも家族の何かのお祝いのときに、昔の料理長が干しアワビを出してくれたりしてたんですよ。高級嗜好のお客様にお出しするため、ストックはいくつか常に厨房に持っていたようで。

なので、普通の方より干しアワビを食べる機会は多かったと思うのですが、青森から持ち帰った干しアワビを食べてみて、遜色ないと感じたんですよね。
叫子
現在、中国料理店以外のレストランや和食店にも「ふくあわび」を持ち込んで、メニューに組み込めないか交渉していらっしゃいますね。
宮田順次
そうなんです。日本はこれまで干しアワビは流通していませんでしたから、干しアワビ=未知の食材であって、中国料理店でしか使わないものという認識があったんです。入手したこともなく、扱うつもりも最初からないというのが日本のレストランでした。

いま、繋がりのあるレストランの厨房に「ふくあわび」を持ち込んで、使ってみてもらえないかと頼んでまわっています。戻すこと自体、中国料理店以外のジャンルの料理人はやったことがないので、どこも、戻し方からして試行錯誤を始めています。
干しアワビを食べる文化がない日本において...
叫子
干しアワビを食べる文化がない日本においてなぜ、「ふくあわびプロジェクト」を発足させようと思ったのですか?
宮田順次
単純に、日本人ってアワビ好きじゃないですか。生も、煮たのも蒸したのも。中華のみならず、和食にいっても伊勢海老やアワビが入ってるとみんな喜ぶ。人気があって重宝されている食材なのに、干したものになると誰も知らないという面白さ。

でも世界では干したものの方が、旨味が凝縮されて生より価値があるとされているんですよ。

実は西暦700年代から今でも、干しアワビは熨斗(のし)として伊勢神宮に奉納されています。縁起物としてヒノキの干し場で干したアワビを祭壇に祀ると、文献が残っています。保存食としてアワビを干すという文化は昔からあったようです。

ただ、それが民間で「食」として食べ続けられてきたかというと、江戸時代から中国への輸出が始まって、日本では途絶えてしまった。日本で良質なアワビを穫って、中国に輸出してから干される。それが、何百年も続いている。

僕たちがやっているビジネスは、そこのルートを取ろうということではなく。これまで不要なものとして扱われがちだった標準・小型サイズの東北産アワビ、これを日本で干して日本で食べようという趣旨でやっています。
漁協から干しアワビを使えないかと提案があ...
叫子
漁協から干しアワビを使えないかと提案があって、食べてみたらよかったんですよね。そこからどのようにして話を進めていったのですか?
宮田順次
「今度の漁で生で出す分を、ちょっと干してくれない?」と持ちかけました。

アワビは年に2回しか漁がないんです。11月から漁があるので、小型サイズのものを2~3000個、生で売るよりは高く買うから、干して納品してというお願いです。当然金額の話はあるのですが、トライしてみましょうとなりました。

漁師というのは、水揚げするまでが仕事なんです。後は生でいこうが乾物にしようが、購入した業者がやるもの。けれど、尻屋漁協はそうじゃなかった。みんなを豊かにするためにどう有効活用できるか、寄ってたかって考えてくれる方々だったんです。それがラッキーでした。

実はその先の、漁師さんからアワビを買って干すことを生業にしている乾物屋さんにも、直接当たりました。ところが先ほどお話しした通り、干しアワビは中国に出すものであって、日本の流通にはここ数百年乗っていなかったので、数ある買い手のひとつでしかない我々とは、話が成立しなかったんです。

そこで、直接漁協から乾物屋にお願いしてもらい、干したものを再度乾物屋から買い取っていただき、それを『南国酒家』が漁協から買い取るという方法でいくことにしました。我々が言っても聞いてもらえませんが、乾物屋は漁協から原材料をもらわなければならない立場なので、漁協から頼む分には聞いてくれるわけです(笑)
干すことを生業にする、「乾物屋」という存...
叫子
干すことを生業にする、「乾物屋」という存在があるんですね。
宮田順次
日本の干し手は優れた技術を持っていますよ。

干す期間や干す際の細かなノウハウ。個体差があるので、水分を多く含んでいるアワビとそうではないアワビを、ひとつずつ見ていかなければなりません。

僕が実際見にいったときは、水揚げされたのを塩入れして1回ボイルするんですね。で、そのあと風通しのいい所で、日干しをしていく。アワビが丸まってしまうので、小判のような形のまま干しきるやり方や、何個か紐に通して吊るして乾かすのですが、紐の通し方など、外には絶対に漏らさない技術を持っています。

実際すごいスピードです。水揚げされたアワビが乾物屋に運ばれて、翌日にはもう湯がいてですね、干す作業が始まっています。そこのスピード感が胆なんじゃないかと思います。漁師はすぐ乾物屋に持っていく。乾物屋はすぐに干す。長年の経験で、どうやったらアワビが美味しくなるかというノウハウを持っているんでしょうね。

結果としてうちではなく、漁協を通して交渉してもらったことが、このプロジェクトが早く動き出す大きな要因だったと思っています。生で出す価格に乾物屋にかかる経費、プラス手間賃としていくらか乗せてくれれば、うちが全部出すとお約束しました。

その分いつもとは違う手間が漁師さん達にかかってくるわけですが、彼らのメリットは、アワビの価格が安定すること。干したら1個いくらで、年中同じ価格で売ることができる。生だとイケスに置いておきますが、価格が乱降下することもあるので。
年2回の漁とおっしゃていましたが、、その...
叫子
年2回の漁とおっしゃていましたが、、そのときしか利益が出ないのですか?
宮田順次
猟師さんたち達は年間通して色々な魚を獲っています。そしてそれぞれの魚種によって、漁の日程が決まっているんです。

アワビは年2回、漁をします。南からスタートしますが、日が決まっているので、漁後はアワビが全国の市場に出荷され、供給が増えれば価格が安くなるんですね。変な話ですが、漁の期間中、アワビの価格は下がっていくんです。いっぱい獲れた年は、特に値段が安くなります。

あと、入札方式なので、入札価格が年によって3倍など、かなりバラつきがあります。今年は結構平均値取れたんですけど、去年は震災のあと、今の価格の2~3倍でした。だから僕たちもその年は、高すぎて買えなかったんです。

けれど、干しアワビにすれば保存がきく。大漁の年は余分に獲れた分を干していって供給量を減らし、市場価格を平均値に保つことができます。

理にかなった方法なのですが、漁協では自分たちで干して保管するという感覚が今までなかったようです。日本の乾物屋は乾物屋で、別途倉庫代などがかかるのでストックしたくない。
叫子
干してもらったアワビを手に入れて、そこから何に着手したのですか。
宮田順次
まず、『南国酒家』の常連のお客様をご招待して、試食していただきました。あとは一般に向けても、生のアワビと干しアワビの食べ比べコなど、「ふくあわび」を体験していただけるコースを2000食限定で実施し、アンケートを取りました。

それから国へ、農商工連携認定を受けることが出来ないか、申請を出しました。

僕は、『南国酒家』がちょうど50周年を迎えた年に社長に就任したんです。

安全で美味しいものを適正な値段で出し、いいサービスを提供するというのが当たり前。そんな中で、『南国酒家』がこういうことをやったんだという、従業員のみんなが胸を張って言えるような、社会に貢献できるような事業を始めたいと思っていたんです。

「ふくあわび事業」というのは、干しアワビという新しい食材を日本に紹介し、日本で作り日本で消費していくという企画。日本全体にとって意義があるし、全国的に普及すれば50年後見た時に、『南国酒家』が先陣切ってやった会社なんだというのを作りたかったのもあります。

震災の少し前に国に申請をしていたのですが、検討期間ちょうどその時期にあたって、干しアワビを全国に普及させるために、国が一部助成してくれることになりました。国から無事、農商工連携認定を受けて、進めている最中です。いま2年目で、来年までは国の認定事業として、自分たちの利益にならないものに対しては、一部お金をいただいています。

南国酒家で売り上げた物に対してはもちろん出ませんが、マーケティングとして他の料理店に配ったサンプル分は、国が75%を出してくれます。25%は自腹なんですけどね。その25%を払ってでも、そういった事業をやっている『南国酒家』ならば食べにいきたいと、一般生活者の皆様に思っていただければ。

そして、うちで働いてくれている社員みんなが誇りに思い、結果としてお客様へのサービスの向上に繋がるのであれば、それだけで価値があると考えています。“その会社に価値を感じてお客様が食べにくる”。今後、そういう風になっていくと思うんです。
この事業を進めるにあたって、一番苦労され...
叫子
この事業を進めるにあたって、一番苦労されたのはどの点ですか?
宮田順次
やはり震災による影響で、アワビが入手できず、プロジェクトが7~8か月ほど遅れたことです。その間、漁師さんたちはまったくアワビを獲れない状況で。

国の認定は3年と決まっているので、ジリジリ苦しい期間がありました。

後は、価格ですね。価格はほんとうに苦労しました。消費者にどう見せていくかという役割の『南国酒家』と、職人である漁師さんたちの価格の折り合いが、むずかしかったです。彼らは彼らなりに、ひとりで決めるわけではなく、漁協組合員がいて、役員がいて。

僕たちもこの事業に対して、儲けなしで全国に普及させようという想いを持っているし、交渉窓口である方々も、その想いで一生懸命なんです。けれど、青森に帰ると叩かれてしまう。仕方ないですよね。そこは僕の責任。

現場を体感していなかったら数字でしか見えないと思うので、何回も足を運んで事業の背景を説明しにいきました。ただ、東京と青森では距離も遠く、フラッと行けるものではないので、最初は温度差がありました。

これが関東近郊だったらしょっちゅう行って、一緒に飲むこともできるので、心の距離が縮まるのも早いと思うのですが。やはり十何人いる構成員の役員みんなに理解し、納得していただき、金額に反映させるのに、1年半かかりました。

「ガイヤの夜明け」で最後、握手してるシーンが放映されましたが、あの時ほんとうの最後の最後に価格が決まったんです。カメラも値段交渉の場に3回ほど入っているのですが、全部決裂しちゃうからカットされるし、最後にシェイクハンドしたところは、金額のやりとりをめまぐるしく、10円20円でやっていました。

お互いの思惑の中で、どちらも儲けようと思っておらず、でも赤字にならないよう調整する。10円でも20円でも安くなれば、それだけお客様に提供しやすくなり、ふくあわびを食べていただく機会が多くなり、結果として全国に流通させる大きな要因になる。

漁協担当者もそれはわかってくれている。でも担当者は背後に、組合に対して説明がつかない事態に持っていくことができないという・・・それをずーーーーっとやってましたよ(笑)

で、初年度は暫定。後で清算があるかもしれませんという形で取引。2回目の漁は震災で獲らないという報告があった。そして3回目の今回、漁獲量はあるけれど金額の折り合いをつけるのに時間がかかった。これが一番大変でした!
取材・文 / 華麗叫子
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